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作家シリーズ

グラフィックデザイナー・赤羽美和 ~パターンがつなぐ人と人~ 【後編】

2017/07/19

■日本での試み~対話から生まれるホスピタルアート~

今回の作品では、京都ルネス病院で病院職員とのワークショップが行われた。
「基本的に言葉は使わずドローイングをするワークショップなのですが、スウェーデンでのプロジェクトの参加者は、思わず声が出てしまったり、道具の受け渡しの時などは構わず会話をしていて、和気藹々と楽しい雰囲気でした。今回、日本での開催ということで、何か変わることはあるのだろうか、すごく静かだったりするのだろうかと思っていましたが、今回も賑やかで楽しい場となりました。テープを使って画面に大きく描いたり、スタンプを大胆にたくさん押したり…。立体的にテープを貼る方もいらっしゃったり、皆さん積極的に参加してくださいました。」

赤羽氏のワークショップはただ自由に描くということはしない。30秒で描く、目をつぶって描くなど、色々なルールを決めて、ゲームのように楽しく参加できる工夫をしている。
「何かを考えて描くというより、即興性を大切にしています。リズムや、偶然がもたらす予期せぬ展開に興味があります。中には、丸、三角、四角をモチーフにとルールがあっても、わりと具体的にネコの絵を描く人も現れて…でも、それでいいんです。そこにはその人なりのストーリーがあるんですよね。そういったものを含めて、ワークショップで生まれた造形と向き合い、パターン模様を作り上げます。そして新たな物語が始まる…そんなイメージです。」

  • 【ワークショップ風景】 
  • 【色々な人の手で自由に追加される丸、三角、四角】 
  • 【立体的に貼ったマスキングテープ】 
  • 【具体的に描かれたネコの絵】 

ストックホルムでのプロジェクトと同様、ひとつの版を回転させ、重ねていくことでデザインは構成された。
同じ版を使って作り上げられたとは思えない、動きのあるデザイン。それぞれの陶板を見ながら、同じ形を見つけて楽しむこともできる。
「この部分は、ワークショップで作りあげられた作品の全景からテープのラインを取り出し、縮小して配置しています。“幾何学のレース”みたいだなあと思って配置しました。なんだかキラキラしているように見えませんか?そうしてみたら、パターンデザイン全体が宇宙空間のようにも感じられて…。ワークショップ参加者の皆さんによる造形に触発されて、私自身のストーリーも浮かんでくるとパターンデザインも楽しくなってきます。」
そう言われると、丸いハンコでスタンプされた形が小惑星のようにも見えてくる。

  • 【ワークショップ作品全景】 
  • 【“幾何学のレース”部分】 
  • 【小惑星のような丸いスタンプやシールの形】 


■作品の制作

  • 【色の試作】 
  • 【制作工程の確認】 

上に重ねた色が下の色を透過することで、面白さ、深みが出てくるので、色の透け感などを再現するのに、釉薬の選定や色を刷る順番など、職人と試作、打合せをしながらイメージに近づけていった

  • 【使用した釉薬】 
  • 【シルクスクリーンの版】 

透明感を出すため、シルクスクリーンで色を直接陶板に直刷りし、一色刷るごとに乾燥させ、乾いたら次の色を刷るという方法で制作は行われた。
ひとつの版を、90°、180°と回転させながら1色ずつ刷っていく。

 

  • 【版を回転しガイドに合わせる】 
  • 【釉薬をのせる】 
  • 【印刷】 
  • 【刷り上り】 

  • 【全て印刷し終えた陶板】 
  • 【作品にサインを入れる赤羽氏】 

ワークショップで病院の職員たちが協力してひとつのものを作り上げ、それを赤羽氏が再構築し、そしてそのデザインは、大塚オーミ陶業の職人の手により、ひとつひとつ刷られ、完成されていく。
たくさんの人の手を介してつくり上げられていくパターンが、人と人とをつないでいる。

  • 【刷り上った作品を前に微笑む赤羽氏と弊社スタッフ】 
  • 【サインを試し書きした陶板に印刷をする赤羽氏】 
  •  

翌日、窯で夜通しじっくり焼き上げられた陶板は、みずみずしい色彩を湛え、目の前に現れた。
「紙にプリントしたカンプよりも、優しく暖かい素敵な色ですね。陶板になると、印刷した釉薬の少しの厚み、重なりで奥行きが出て、絵に広がりが出ましたね。」
嬉しそうな赤羽氏が印象的だった。

  • 【みずみずしい色彩の陶板】 
  • 【焼き上がりを確認する赤羽氏】 
  •  


■ホスピタルアートとは

ホスピタルアートとは、病院などの医療環境をより快適な癒しの空間とする試みで、欧米では広く普及しており、日本でも徐々に注目されつつある。
アートが患者の不安や緊張を和らげるだけでなく、そこで働く人のモチベーションも高めていく。
前回、陶板が設置されたスウェーデンは、ホスピタルアートの先進国と言われ、通称「1%のルール」ということで、公共建築の新築、改築に際して、全体予算の1%をアートに充てるという法律が1930年代に導入された。(病院の場合は2%を上限としてアートを採用する旨が示されている)
これは、人は誰でも文化的に最低限保障された生活を送る権利があるとの考えからだ。

赤羽氏は、ホスピタルアートの仕事を振り返って言う。
「セント・ヨーラン病院のプロジェクトでは、色について特に制限がなかったことは少し驚きでした。たとえば、赤は血をイメージするとか、興奮してしまうから避けたほうが良いなどと聞いたことがあったので。その制限をしないところに興味を持ちました。全ての人が好ましく感じる色や模様、絵柄というのは存在しないと思いますし、同じ色でも、昨日は気持ちよく見られたのに、今日は違って見えることってあると思うのです。
アートの存在により、病院の内と外、患者とそうでない人、みたいなところにある感情的な隔たりをなだらかにしていけたらい良いですね。人との関わりをパターン模様にストーリーテリング(※)するJAMプロジェクト、今後も続けていきたいと思っています。」

(※)ストーリーテリング:伝えたい想いやコンセプトを。それを想起させる印象的な体験談やエピソードなどの“物語”を引用することによって、聞き手に強く印象付ける手法
 

  • 【自ら版を印刷した陶板を持って微笑む赤羽氏】 



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2017年7月19日(水)~25日(火)まで、東京・六本木のシンポジアギャラリー(AXISビル地下1階)で開催された「ホスピタルとデザイン展」では、赤羽氏によるセント・ヨーラン病院での「JAM」プロジェクトの展示の他、医療に対してクリエイティブ(※)ができることをテーマに、医療関係者、デザイナー、アーティストなどによるトークセッションを開催。
この展覧会で、今回、大塚オーミ陶業で制作された赤羽氏の作品、JAMシリーズの第2作目が展示された。

(※)クリエイティブ:アイディアを元に作られる、新しいデザインやコンテンツ


 

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