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作家シリーズ

彫刻家・五十嵐威暢~ つくることは、生きること ~ 第3回

2014/12/17

第3回 むかし いま みらい 
 

 
■ 昔のしごと 今のしごと

大塚オーミ陶業で五十嵐氏は、主に水平を積み重ねた形状の作品をつくられてきました。水平な作品はなぜ生まれたのかという質問から、五十嵐氏に影響を及ぼすお気に入りの場所まで紹介していただきました。
また、土以外の素材での制作についても伺いました。

  

- 水平な作品ができたきっかけは何でしょうか。

土のしごとの元は木でつくった水平な気分という作品です。あれはロサンゼルス(カリフォルニア州)にいた頃に始まったもので、そこに住んでいたことが多分影響していると思う。人からよく言われることで、僕も多分そうだろうと思っていることなんだけど、農耕民族は水平に広がっていくんだよね。畑を作ったりして。狩猟民族は、木に登ったり、どちらかというと積み重ねていく文化。僕は農耕民族だから水平に広がっていくのが多分自然なんだろうな、というのがひとつ。
もうひとつは、単純に水平と垂直と考えたときにやっぱり水平の方がのんびりしている。緊張感が少ない。緊張感が好きな人って結構いるんだけど、僕はもっともっと自分の仕事から緊張感をはずしていきたい。
そういう願望があるから水平の世界っていうのは憧れなんですね。

  • 木の作品 「水平な気分LHH」 

■ 「水平な気分LHH」 ラグナホンダホスピタル/サンフランシスコ 2008 年



 

- 確かに水平の方が、色んな景色を感じるという感覚はわかります。 

水平線とか地平線とかってね、気持ちが和むし落ち着くんだよね。
 
- 先生は北海道出身というのもあるかもしれないですね。

ああ、それはもちろんあるし、僕がいたカリフォルニア州は海もあるけれど、なんといっても砂漠が美しい。360 度地平線という景色が見られる。
広大な空間が開けていて空が大きい…そういう場所にいたことがやっぱり影響していると思う。
  
- この間仕事で、360 度地平線、360 度砂漠という世界を見てきました。中国で。

ああ、中国でね。(笑)日本では、北海道でもそんな場所はないんじゃないかな。
僕の好きな砂漠は、カリフォルニア州にあるデスバレー。砂漠っていうのは、移動してもずっとおんなじ風景が広がっているのが普通なんだけど、デスバレーは違うんです。
移動するとどんどん変わっていく。新しい衝撃的な世界が次々と現れる。
太陽の位置が変わって山や地面、色んなものが反射するんだけど、時間軸で刻々と変化する。
場所の移動でも、そこにある土とか石とか植物が変わっていく。だから、一箇所見ても見たことにはならない。3、4日滞在しないと見きれないんですよ。広大な敷地に次々とドラマが展開していくわけですから。
それがもうね、とてつもないスケールでとてつもない凄さだから、絶対に日本であれを想像することはできないし、説明することもできない。
デスバレーの中心の小さな町に1920 年代にできたリゾートホテルがあるんだけど、僕はそこへ5回行っている。もう1回行きたいと思ってるんだけどね。
海抜マイナス86mの北米一低い土地があって、その辺は岩塩の湖になっている(※)。
(※バッドウォーター盆地と呼ばれる元・塩水湖) 
 
 - 五十嵐威暢と行くデスバレーの旅!企画しましょうか。(笑)
 
(笑)本当にそこは地獄へ堕ちていく感じなんですよ。どんどん落ちていく。
その町から見える、冬は雪で真っ白になるシェラネバダ山脈。そちらに進んだところに岩山の別荘地があるんだけど、そこがね、2m 立方くらいの丸みを帯びた石がごろごろしていて、その石と石の間に別荘がある。
自然がつくった芸術だよね。
ああいう世界は他では見られない。
アメリカで一箇所推薦というと、僕はいつもデスバレーを選びます。何度行っても飽きない。

  • デスバレー(アーティストパレットと呼ばれる土の山) 

- お気に入りの場所なのですね。
次に、木の彫刻についてお聞きしたいのですが、先生は、素材の良いところを引出すのが大好きですよね?軽いバルサ材を使った作品があったと思うのですが…
 
バルサじゃなくて、ロサンゼルスでつくっていた頃は樺の木だね。フィンランドバーチエアーっていうんだけど、第一次大戦のときに木製飛行機の素材として開発されているから積層されている数が違うの。すごく丈夫で。
あのときはそれが近くにあったから使っていたけど、今は日本にいるから、北海道の日高のシナで作った、シナ合板。
 
- そうでしたか。石のような質量のあるものとそうでないものでどう取組みが変わるかということを伺いたかったのですが、どうですか?

気持ちとしては同じなんです。いい加減に作りたいんですよね。
 
- それを言われてしまうと何も言えなくなりますけど。(笑)

昔やっていたことがデザイン。デザインは、リサーチやプランニングをして組み立てなきゃいけなくて、論理的、合理的じゃなきゃいけない。そういうところから50 歳過ぎたら逃れたいなっていうのがあって。(笑)
石は今でも体力があったらやっていたい究極の素材なんですよ。だけど、残念ながら体力的に厳しいし、もうちょっと軽い素材ということで木になるんだけど、木だって重いわけね。
軽いものをつくりたい。
でもそれは、僕の中にだけあるわけでなくて、時代性もあると思うんだよね。世の中にそういう空気があって、だから、建築もガラスとアルミを多用する。軽いものをみんなが求めているということを感じるっていうのもあるし。
それで、木でいい加減につくるためにはどうしたらいいか考えたわけ。
一刀彫みたいに彫っていく世界はさらさらやる気はなくて、ロサンゼルスで制作のために借りていた工場に木片が転がっていたから、それを使いたいという思いがあったんです。一方では、合板というものもあって。
そうなると木のパーツを組み合わせて作品をつくるということになる。
そこで、一番問題なのは接合部分なんですよ。確実にある部分で接着する方法を考えると、正しい角度の綺麗な面を作らないと接着できない。木ねじみたいなものを使おうと考えても、それも同様に、正しい角度、面取りが出来ていないと綺麗に止まらない。でもそれって、いい加減じゃないでしょ?(笑)
精密な世界になるから、CAD(※)を駆使して角度を割り出していくことになってくる。
(※CAD…コンピューターを用いた製図システム)

  • 木の作品 接合部分の制作 

- 先生は、精密な仕事もすごく得意そうだと思いますけど。

それはデザインの世界だからやりたくない。(笑)
それで、思い立ったのが穴あけて、紐を通して結べば、いい加減にできるってこと。この方法は、伊勢神宮で見た美しい組箱もヒントになっている。校倉造りみたいなつくりの箱なんだけど、四つのコーナーの板を細い糸を通して組み立てているんですよ。
穴をあけて止める、穴をあけて止めるを繰り返して、例えば三角形ができたとすると、そこで形は決定されるわけ。それを積み重ねていけば、いくらでも立体は見つけられる。
 
- いい加減に穴をあけちゃうと自分のイメージした形にはならないですよね?

そこが、面白いんですよ!
  
- あ!そうでしたね、失礼しました。(笑)ついデザインよりの頭で考えてしまって。

だからね、発見していくわけ。イメージしてどうやって作ったらいいか考えるっていうプロセスじゃないんですよ。むしろ逆転している。
いい加減につくりながら「結構これ、いい形じゃないか!」「パーツを増やしたらもっとよくなるんじゃないかな?」っていうことで進めていく。つくることが先になってイメージができてくるのは後になってくる。
いかに素晴らしい発見をすることができるか、想像を超えたものを見ることができるかっていう楽しみがある。

- だから飽きないんですよね。きっと。

そう!飽きない。ワイヤー一本あったらこれを粘土に対してどんな風に使えるかって考える。
だから、色んな使い方ができるし、それが普通じゃない形として現れるんですよ。

- 偶然が積み重なって作品が形づくられていく感じですね。

そうですね。よく言うことだけど、アイディアはいくらでも転がっているから、それを見つけて拾えばいいだけなんです。コンセプトは考えなきゃいけないけど、アイディアは拾えばいくらでもある。
 
- 見つけるのが難しかったりもしますが。

それは、先に体を動かせばいいだけの話ですよ。

  • 木の作品 「凛」 

■ 「凛」  虎ノ門ファーストガーデン/東京都/ 2010 年

  • Takenobu Igarashi Terra-cotta Works 2010 - 2014 

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■ 新しいカタチ

大塚オーミ陶業での初仕事から15 年目の今年(2014 年)、五十嵐氏の土のしごとは新たな展開を見せます。台湾の新荘副都心中央合舎オフィスビルのためにつくられた作品は、今までとは違ったカタチをしていました。

  

- 今までの作品は、細長い形状で横や縦への広がりのある作品だったのですが、今回の台湾への作品は、今までとは違うものですよね。心境の変化
などあったのですか。

理由としては、ひとつは予算ですね。施主や設計が考えていたのはもっと小さいアートでした。でも、あの場所が用意されてあそこにアートワークを設置するとなると、僕の考えでは小さいものでは空間に負けるなっていう思いがありました。でも大きいものを作ったらコストは上がるでしょ。それで、粘土の量を減らした。(笑)点にして並べれば、広い面積を使っても粘土は半分以下の量でいい。
あと、これはデザイナー時代から背負っていることだけど、造形の基本要素って点と線と面なんです。点でつくるか線でつくるか面でつくるか、この3つしかないんですね。今までは線の世界でやってきた。この辺りで点のものをつくってもいいなということもあった。
線の作品は1面か2面しか見えない世界。でも今回の作品は立方体で、全部で5面見える。そこが今までとは違うところ。
実は、このひとつを3m 立方に拡大してつくるっていうのをやってみたい。でも、それは大変なことだから。(笑)とりあえず小さいものを最近はつくっています。

- 点が一列に並んでいると点と点の間を想像できるというか、見る視点によって、点が連なって線に見えますよね。

そうだよね、それは僕も意識した。
作品を設置する空間を考えた時に、点を一列に並べると線に変わるなあ、きっとおもしろいだろうなあと。
 
- この作品で、楽しかった点は何ですか。

あれだけたくさんの釉薬を使ったのは初めてだったからね。それは楽しかった。あとは、制作期間が短かったから余裕がなかった。(笑)

  • 「混在と融和」 部分 

- 制作中に先生から「今回の作品、108つだよ。」と声をかけられて、思わず私は「煩悩の数じゃないですか!」って言ってしまいました。(笑) 

そう、108つ。(笑)偶然なんですよね。設置する壁面が御影石だったのですが、御影石1 枚に作品を4つ配置していくと自ずとそうなった。
そう言えば、今回の個展の作品の個数も奥の壁面に並んでいるのが14個で、残りが41個。数字が反対になっているんですよ。
 
- こんな偶然が起こるのも、先生はやっぱり何か持っている人なんですね!

  • 混在と融和 / 新荘副都心中央合舎オフィスビル(台湾) / 2014 

 
 

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■ やってみたいアイディア…創造の原動力

新しいアイディアを形にし、意欲的に制作活動をされる五十嵐氏。
今後、挑戦したい作品、「生涯現役でいたい。」と語った五十嵐氏の創造の原動力を伺いました。

  

- 先生が今後、大塚オーミ陶業でやってみたいことはありますか。

できたらいいなと思っていることがあるんですけど…まあ、不可能らしいのですが。土の作品は、焼く前の粘土の状態が一番綺麗なんですよね。
 
- 濡れたような質感ということですか。

そうそう。あの質感、艶。あれが、やきものとして実現できればな、というのが夢ですね。
 
- 私も昔そう思ったことがあったのですが、どうも不可能ではないみたいなんですよ。ただ、色が限定されてしまいます。

どんな色?
 
- グレーです。そういうことを目指した方は、過去にいらっしゃったみたいです。
私もそれを見たときには「生かな?」と思いました。焼いているので収縮もしますし、触った感覚は生とは全然違いますけど。

へえ!それは見てみたいね。

  • 焼成前の粘土の艶 

- それは半磁器系統の土だったのですが、おそらく弊社の土でも、グレーの色を調整すれば、できるのではないかと思います。
ちょっと長めに焼きすぎると照りがでるでしょ。その照りが濡れたような艶に見えるんです。

それは是非、やってみたいね!
 
- 先生と大塚オーミ陶業の今後の挑戦ということですね!
先生は次々と色々なアイディアを形にされていますが、その創造の原動力は何でしょうか。

人には“つくる人” と“つかう人” がいる。僕は“つくる人” だから。
原動力…っていわれたら、僕はハッピーじゃないとつくれない。ハッピーになることに努めると、自然と体は動くし、作品ができてくる。
 
- 不幸を糧に芸術作品をつくる人もいますよね。(笑)

そうだね、そういう人もいるよね。でも、僕は楽天主義者だから。過去の不幸な出来事をハッピーにつくったこともあるんですよ。(笑)
つくれること自体が既に「幸せ」なんだよね。

  •  

  
 
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■ おわりに

 
「素晴らしいね。僕は、恵まれたから。」
五十嵐氏に弊社での制作環境を尋ねた時の“恵まれた” という言葉に、私たちは出会いの偶然と運命のような必然、そして、今まで培われてきた信頼、感謝の念を感じ、とても光栄に思いました。
15 年前、五十嵐氏が土を扱うようになったきっかけは偶然ではありましたが、氏の土への想いや、ものづくりに対する考え方を伺う中で、五十嵐氏と土との出会いは必然だったと感じ、土での制作を心から楽しんでいる姿を知ることができました。
今回のインタビューにより、本来土は可塑性が高く、想いをカタチにするという目的に対し、多大な可能性を秘めた素材なのだと再認識した次第です。
そして間違いなく、氏のやきものに取組む姿勢、常識にとらわれないアイディアや魅力的な人柄、自由に繰り広げられるものづくりが、弊社スタッフの心を動かし、共に想いをカタチにするための創造力に繋がっているのだと確信しています。

未来にどんな想いを伝えるのか。どんな作品を届けるのか。
「陶」という素材を扱う限り、私たちにはそれらを深く考える責任があると感じています。
五十嵐氏の作品から溢れるパワーは、未来を生きる人の心にも響くであろうと想像し、わくわくしながら
インタビューをさせていただきました。

今後も五十嵐氏と共に、新しいものづくりの挑戦と実現を進め、やきものの可能性を更に大きく広げていきたいと思います。

 

  
2014.12.17
彫刻家・五十嵐威暢 ~つくることは、生きること~ - Fin -
 
  
❖今回のレポート掲載に際し、五十嵐威暢先生はじめ関係者の皆様のご協力、写真提供をいただき、厚く御礼申し上げます。 
 
 
 
 
 
    
※当レポート内の画像及びその他内容の無断転載・転用を禁じます。
 

  
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PDF:彫刻家・五十嵐威暢~ つくることは、生きること ~ 第3回(1.3MB)

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